石屋の息子として生まれ、苦学の末に東大に入学、外務省を経て第32代の内閣総理大臣にまで昇り詰めた広田弘毅の生涯を描いた
「落日燃ゆ」(城山三郎)を読みました。
外交官時代に左遷人事とも言えるオランダ公使行きとなった時、「風車、風の吹くまで昼寝かな」と詠みながらも、腐ることなく自分の役割に生きた広田。
外務省同期の吉田茂がポストにこだわって画策していたのとは対照的に、常に「自ら計らわぬ」生き方を貫いた広田は、周囲から懇願される形で結果的に吉田よりも先に外務大臣、そして総理大臣になってしまいます。
そして、東京裁判では第二次世界大戦で暴走した軍部が互いに罪を押し付けあうなか、自分の役割に対する責任を感じながら一切の弁明をしなかった彼は、6人の軍人とともにただ1人の文官として絞首刑の宣告を受けることに。
命を賭してでもこうした生き方を実際に貫いた先人の記録に触れて、まず驚きと続いて深い敬意を感じました。歴史小説として抑えた筆致の中に、広田元首相の国の命運を背負った生き様と家族への愛情が鮮やかに浮かび上がってくる名作、これからも末永く広く多くの日本人に読み継がれて欲しい1冊です。