Mgt.264A 本当の笑顔とは？

今日のマーケティングリサーチでは、２つ面白いことを学びました。

１つは、cross-sectional designとlongitudinal (panel) designの違いについて。前者は毎回ランダムに選ばれた人を対象に調査を複数回実施する方法、後者は同じ人を対象にして複数回の調査を実施する方法です。

例えば、cross-sectional designで実施された調査の結果、以下が判明したとします。この結果から何が分かるでしょうか？ありがちな答えは、「ブランドＡはブランドＢとＣからシェアを奪っている」という推測でしょう。

ところが、longitudinal (panel) designに基づいて調査を実施すると、以下のようなより詳細な情報を得ることができます。この表からは、t+1時点でブランドＡを支持している250人のうち、t時点でも支持していた人は175人で、残りの75人はt時点でブランドＤを支持していたがt+1時点ではブランドＡに変更した人である、ということがわかります。つまり、実際にはブランドＡはブランドＤからシェアを奪っていたわけです。また、実はブランドＢはブランドＡからシェアを奪っていた（先の推測の全く逆）、ということもわかります。

市場調査を実施する際はそのデザインを間違えるとこの例のように間違った結論を導き出してしまう恐れもあるので要注意ですね。ちなみに、この表からも分かるとおり、マーケットシェアが低いブランドほど顧客のブランドに対する忠誠度(loyalty)も低くなる傾向があります。これをDouble jeopardyと言います。

もう１つ面白かったのは、人間の感情と表情の関係について。何枚もの色々な人の色々な表情のスライドを見て、これは怒った顔？これは驚いた顔？等と議論しました。以下の写真でどれが本当の笑った顔かわかりますか？（答えは最後に）人間の顔の筋肉には意図的に動かせない部分（感情と連動して動く部分）があるそうです。したがって、こうした仕組みを正しく知ることで、目の前の相手の表情を見たときに、怒り、悲しみ、恐れ、喜び、驚き、嫌悪等といった感情が真のものか、あるいは「つくり笑い」や「驚いたふり」であるのかをより正しく見分けることができるようになると言います。実際に警察の取調べ官等はこうしたトレーニングを受けるそうです。

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ところで、なぜビジネススクールのマーケティングの授業でこんなことを勉強するのでしょうか？経緯としては、マーケティングリサーチの一手法であるFocus group（８人前後の共通の興味を持つ人を集めて自由に語ってもらい、ターゲット顧客層の真のニーズを探る手法）でのモデレーターや、１対１でのインタビューを実施するときのインタビュアーに求められる資質の１つとして、こうしたスキルが挙げられました。

また、教授曰く、「ジョブインタビューや実際の仕事でのネゴシエーションでも役立つスキルなので授業で取り上げるようにしている」とのこと。ビジネススクールではHBSのExecutive MBA等では教えているところもあるそうですが、まだ広く認知されていないとか。ちなみに、統計上、女性のほうが男性よりも直感的に真の感情を見抜く力は高いそうです。恐らく人間関係での修羅場の数が違うのでしょう。

今回はサイドリーディングとして「表情と感情の関係」に関する論文(*)を２本読みました。今まで意識したこともありませんでしたが、世の中にはこうした分野を専門に研究している人がいるんだなぁと妙に感心してしまいました。

*「表情と感情の関係」に関する論文
Paul Ekman and Wallace V. Friesen, “Unmasking the face - A guide to recognizing emotions from facial clues,” Consulting Psychologists Press, Inc.
Paul Ekman, “Emotions Reveled”, Times Books

■クイズの答え
一番左の顔が本当の笑顔です。笑顔は最も偽装しやすい表情のひとつだそうです。確かによく見ると、右の３つはどこか不自然ですね（口元など）。毎日、この手の笑顔を自宅で見ているなぁと思った人はこの本を読んでおくことをお勧めします。